|
● 英語学習辞書の問題点 ― 特に比較文について(その4)
Some problems of English Dictionaries for learners: with special
references to degree constructions
まとめ
辞書における日本語による「意味をとるための説明」を参照しただけで,
場面に応じた英語の使い分けができるようになることができれば,
それはそれで好ましいことではある。
しかし,場面に応じた適切な英語を紡ぎ出すという作業は,
実際には,なかなかに難儀なことのように思われる。
辞書,なかでも発信型辞書を標榜する辞書は,
できるだけ新しい知見やヒントをさらに追加あるいは削除しながら,
英語の紡ぎ出しかたを指南する立場からの
記述をさらに充実させてゆくことが肝要なことであるように思われる。
以下に本稿において述べた内容の要約を示す。
1.as ~ as で表現するequatives(同等比較構文)は,
constructions of strict identity
(厳密な意味での「同等」を表わす構文)ではなくて,
a sense of “same or more”
(「=」もしくは「≧」の意味)を伝える構文である。
Jane is as clever as her brother.
「Janeはとても賢いよ,あの賢い兄さんにも負けていないよ,
甘く見てはいけないよ」というほどの意味になる。
「Janeの賢愚の程度は兄さんと同じくらいだ」
ということを強調するパターンではなくて,
すでに賢いとわかっている兄と比較することによって,
Janeがいかに賢いかを強調するパターンである。
2.Jane is no cleverer than her brother.
= Jane is no more clever than her brother
賢くないことが分っている兄と比較して,
ジェーンがいかに賢くないか
(つまり,馬鹿か)を強調するパターンである。
as clever as と
no cleverer than [no more clever than]
の二つの表現は,同程度という意味機能の観点
から見ると,正反対の意味機能を担う。
3.X is not as ~ as Y.とX is ―er than Y.
X is not as---as Y.のパターン
と反対の意味機能を担うパターンは
,X is ―er than Y.のパターンである。
その理由は,“as ~ as の否定は,
「≧」の意味の否定である” ので,
“not as ~ asは
「not ≧」の意味を表わすことになる”
からである。
下記の(a)のようなパターンは,
(b)のようなパターンに対する
「自然で標準的な否定パターン」である。
(c)のようなパターンは,
(b)に反論する場合にのみ用い,
使用頻度はかなり低い。
a. Jane is not as clever as her brother.
b. Jane is cleverer than her brother.
c. Jane is not cleverer than her brother.
4.No more than 100 people came.
「たった100人しか来なかった」
no more than … は
あとに来る数量を強調するために用いるパターン
であった。
これは,「話し手が100という数を小さな数と考えている」
という点を強調する文であった。
no more than Xは,
さらに言えば,
not more than Xと
基本的には同じ意味機能を担うことができる。
「no more than X」は,
意味的には「X at the most
またはat most X(せいぜい,多くても)
に近い表現」でもあり,
この二つの表現はどちらも,
提示された数量が考えうる最大の数量であり,
それよりも低い可能性もある,
ということを示す。
「仙台まで車でせいぜい5時間だ」
a. It will take you no more than 5 hours
to drive to Sendai.
b. It will take you 5 hours at the most
to drive to Sendai.
c. It will take you not more than 5 hours
to drive to Sendai.
辞書が,no more thanを
not more thanと
同じように使えることを積極的に
追認するようになれば,
辞書の支援をうけて英語を紡ぐということを
してきた多くの学習者も
no more than \48,000と
as little as \48,000の使い分けが
できるようになってゆけるかもしれない。
as little as \48,000は,
売り手がアピールする最安値である。
客が支払わねばならぬ
最低の金額を伝えるのが
as little asである。
旅行会社のキャッチコピー
「韓国旅行は,激安の48,000円から」
に相当する意味を表わす。
これに対して,no more than \48,000は,
客が支払わねばならぬ最高金額
を伝える。
同時に,
これよりも低価格になる可能性も示唆する。
「韓国旅行は,激安の48,000円まで」
のような意味に解される。
しかし,売り手は,
通常,このようなキャッチコピーは作らない。
5.No fewer than 100 people came.
「100人も来た」
no less /fewer than … は
あとに来る数量を強調するために用いられ,
話し手は100という数を大きな数と考えている,
という場合の表現パターンであった。
no less/fewer than Xは,
さらに言えば,意味的には
at least X
または
X at the (very) least(少なくとも)
に近い表現でもある。
つまり,no less/fewer than X
とnot less than Xとは
基本的には意味が重なる。
辞書が,no less thanを
not less thanと同じように使えることを
積極的に追認してゆけば,
辞書の支援をうけて英語を紡ぐということをしてきた
多くの学習者も
下記のようなno less than $13.1 millionと
as much as $13.1 million
との使い分けができるようになってゆけるのかもしれない。
No less than $13.1 million
are necessary for giving first aid
to the tsunami sufferers,
UN expert said.
The amount is preliminary,
and it will certainly grow in the future.
この文例においては,
国連専門家筋の認識として
「少なくとも$13.1 millionが必要だ」との見解が
提示されている。
当局筋がアピールする最低の金額を伝えるのが,
no less thanである。
これに対して,仮にas much as $13.1 millionが
ここに使われた場合は,
当局側は当初から最大限の金額を伝えることになる。
当局側としては,通常,
とくに災害発生直後の時期においては,
このような表現の使用を回避することに
注意を払うものと思われる。
逆に拠出金を分担する国々は,
当初から上限が提示されている方の発言を
歓迎するかもしれない。
(参考文献)
阿部 一. 1998. 『ダイナミック英文法』 東京: 研究社出版.
Biber, D., et al. 1999. Grammar of Spoken and Written English.
Essex: Pearson Education.
Celce-Murcia, M. & Larsen-Freeman, D. 1999. The Grammar
Book
(2nd ed.). Boston: Heinle & Heinle.
江川泰一郎. 1991. 『英文法解説 (改訂三版)』 東京: 金子書房.
Greenbaum, S. & Quirk, S. 1990. A Student’s Grammar
of the English
Language. Essex: Longman.
グリーンバウム, S. ・クヮーク, R. 著・池上嘉彦・米山三明・
西村義樹・松本 曜・友澤宏隆 訳. 1995.
『現代英語文法 大学編』 東京: 紀伊國屋書店.
池上嘉彦 編. 1996. 『英語の意味』 東京: 大修館書店.
石黒昭博 監修. 2003. 『総合英語 Forest (第4版)』 東京: 桐原書店.
Leech, G., Cruickshank, B. & Ivani?, R. 2001. An A ? Z
of English
Grammar & Usage. Essex: Pearson Education.
Leech, G. Cruickshank, B. & Ivani?, R. 編著・武田修一 監訳.
2003.
『コーパス活用ロングマン実用英文法辞典』
東京: ピアソン・エデュケーション.
McCaleb, J. G. 1998. 『ネイティブ感覚の英文法』 東京: 朝日出版社.
ミントン, T. D. 著・水嶋いづみ 訳. 2004. 『日本人の英文法 V』
東京: 研究社.
Mitchell, K. 1990. “On Comparison in a Notional Grammar.”
Applied Linguistics 11:1, 5202.
Murphy, R. 2004. English Grammar in Use (3rd ed.). Cambridge:
Cambridge University Press.
Sinclair, J. 1990. Collins Cobuild English Grammar. London:
HarperCollins.
Sinclair, J. 2004. Intermediate English Grammar. Glasgow:
HarperCollins.
Sinclair, J. 2004. English Usage for Learners. Glasgow:
HarperCollins.
Swan, M. 1995. Practical English Usage (2nd ed.). Oxford:
Oxford
University Press.
Thomson, A. J. & Martinet, A. V. 1986. A Practical English
Grammar
(4th ed.). Oxford: Oxford University Press.
トムソン, A. J. ・マーティネット, A. V. 著・江川泰一郎 訳注. 1988.
『実例英文法 (第4版)』東京: オックスフォード大学出版局.
植田一三. 2001. 『スーパーレベル英文法』東京: ベレ出版.
八木孝夫. 1987. 『程度表現と比較構造』 東京: 大修館書店.
山口俊治. 2002. 『英文法 Try Again』東京: 語学春秋社.
安井 稔. 2004. 『仕事場の英語学』東京: 開拓社.
吉田正治. 1998. 『続 英語教師のための英文法』 東京: 研究社出版.
|