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● 上臈は下臈に成り、智者は愚者に成り、
徳人は貧に成り、能ある人は無能に成るべきなり。
It is good for the man of high rank to act like a humble person,
for a scholar to act like an ignoramus,
for the rich man to act like a pauper, and for the talented
man to act awkwardly.
― 『徒然草(第九十八段)』 と 『一言芳談』 から
尊きひじりの言ひ置きける事を書き付けて、一言芳談(注1)とかや名づけたる草子を見侍りしに、心に合ひて覚えし事ども。
These are the things I found most to my taste
when I read the book called Ichigon Hodan,
which records the sayings of great priests. (英訳:Donald
Keene、以下同様)
「以下、高僧のお言葉です。心に響きました。
『一言芳談 (注1)』 という語録集に書き留められていました。」(和訳:坂井孝彦、以下同様)
(1) しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、
おほやうは、せぬはよきなり。
When in doubt whether or not to do something,
generally it is best not to do it.
「やるか、やめるか、迷ったら、大抵はやめた方がいい」
(2) 後世を思はん者は、
糂汰瓶一つも持つまじきことなり。
持経・本尊に至るまで、よき物を持つ、よしなき事なり。
A man concerned about the future life
should not own even a "miso (注2)" pot.
Owing valuables, even if they happen to be
personal copies of sutras of images of gurdian Buddhas,
is harmful to salvation.
「〈浄らかな晩成〉を願う者は、
〈ぬかみそ〉の桶のような物を
ひとつ持つことだけでも、よくない。
自分用の経本でも菩薩像でも
高級品をもつのでは救われない」
(芭蕉の一句: 秋のいろ ぬかみそつぼ も なかりけり)
(3) 遁世者は、
なきにことかけぬやうを計ひて過ぐる、
最上のやうにてあるなり。
The hermit's way of life is best;
he feels no want even if he has nothing.
「生業を卒業したら、なにはなくとも、
なんともなく間に合わせて暮らしてゆくのがよい」。
(4) 上臈は下臈に成り、
智者は愚者に成り、
徳人は貧に成り、
能ある人は無能に成るべきなり。
It is good for the man of high rank
to act like a humble person,
for a scholar to act like an ignoramus,
for the rich man to act like a pauper,
and for the talented man to act awkwardly.
「自分が上席者であると思っていても下座に坐り、
智慧者であると思っても愚者の謙譲さに心し、
小金の蓄えができたと思っていても
貧しい人々のつつましさを忘れず、
達者だと思っていても
世の不器用者の身にもなって
力を貸してゆくようにしなさい」
(5) 仏道を願ふといふは、別の事なし。
暇ある身になりて、
世の事を心にかけぬを、第一の道とす。
There is only one way
to seek Buddhist enlightenment:
you must lead a quiet life
and pay no heed to worldly matters.
This is the first essential.
「浄らかな晩成を祈願すると言っても、
これは別におおげさなことをするということではない。
せかせかせずに、悠々・優々・遊々とかまえて
世事を超越してゆくこと、
これを第一歩としなさい」
この外もありし事ども、覚えず。
There were other things, but I don't remember them.
「他にもいろいろ書いてありましたが、忘れちゃった」
注1. A collection of Buddhist sayings relating to the Jodo
sect.
The compiler and date are unknown.
浄土宗の高僧の言葉を(分類の仕方によるが)140段ほど集めた語録集。
編者・編集時期などは諸説あるも不詳。
注2. Miso is a paste made of beans, commonly used in Japanese
cuisine.
味噌は大豆が原料の糊状食品で日本人の常食。
(考察):
「一言芳談」は兼好法師の愛読書であったようです。
「一言芳談」を斜め読みしてみました。
上記の「徒然草98段」は「一言芳談」のつぎの各段からの引用であることがわかりました:
・「徒然草98段」の(1)(2)(3)(4)(5)は「一言芳談」の各22、73、41、65、55段に対応していました。
・「徒然草の39、49段」にも、「一言芳談の各42、133段」から引用しているように見える箇所がありました。
(a)「一言芳談」の22段:
「明禅方印云、しやせまし、せでやあらましと おぼゆるほどの事は、大抵(おほむね)せぬがよきなり。」
「しようか、しまいかと思いあぐんでいるときは、大抵はしないほうがよいのです
(現代語訳:大橋俊雄、以下同様)」
Acts you must ponder
whether to do or not are,
as a rule,
better left alone. MYOZEN (英訳:Dennis Hirota、以下同様)
A「一言芳談」の73段:
「俊乗房云、後世(ごぜ)をおもはんものは、
糂だ瓶(じんだがめ)一も、もつまじき物と心えて候へ。」
「俊乗房重源は、浄土を願う者は、
糠味噌瓶ひとつほどの財産も、
もつべきではないと心得ております、と語られた」
Those mindful of the world beyond
recognize that they should own nothing,
not so much as a crook for salted bran. SHUNJO
(b)「一言芳談」の41段:
「敬仏房云、遁世者は、なに事もなきに、事闕ぬ様(ことかけぬやう)をおもひつけ、ふるまひつけたるがよきなり。」
「遁世者は、
どのようなことでも
手近かになければないで、
何とか間に合わせようと心がけ、
振舞うのがよいのです」
As a recluse,
accustom yourself to
making do whatever the circumstances,
feeling no want of anything
you may lack. KYOBUTSU
(c)「一言芳談」の65段から:
「顕性房云、むかしは後生(ごぜ)をおもふ者は、
上臈(じゃうらう)は下臈(げらう)になり、
智者は愚者になり、
徳人(とくにん)は貧人(ひんにん)成、
能あるものは無能にこそ成しが、
今の人はこれにみなたがへり。...」
「昔は、浄土を願う者は、
たとえ上席の者であっても下座に坐り、
智慧ある者は愚者のようになり、
資産のある者は貧しい者のようになり、
有能な者は無能なようになりおおせたのですが、
いまの人はみな、ちがってしまいました。...」
It used to be that,
in their aspiration for the world beyond,
the senior monk became a novice,
the sage a fool, the prosperous man poor,
and the person of accompanishments unschooled.
But now, people are completely different.... KENSHO
(d)「一言芳談」の55段:
「行仙房云、たゞ仏道をねがふといふは、別にやうやうしき事なし。
ひまある身となりて、道をさきとして
余事(よのこと)に心をかけぬを第一の道とす。」
「仏道をこころざすといっても、
これといっておおげさなことではないのです。
世のわずらわしいことから身を引いて
ひまな身となり、
仏の道をさきとし、
世間のことに心をかけないことを
第一の道とするのです」
Wholly aspiring to the Buddha Way
is not an involved task.
Allow yourself time,
putting the Way before all else
and setting your mind to
no other business:
this is the primary step. GYOSEN
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