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●月の砂漠(1923) 加藤まさを作詞・佐々木すぐる作曲
中村善明大兄様のお住みになられている千葉県御宿町。
海水浴で有名です。街をあるきますと街燈や標識などなど、
らくだデザイン一色です。「月の沙漠」の名所です。
そうだ、京都行こう、ではなく
中村大兄さん 行こう!
作詞者の加藤まさお(1897-1977)は,千葉県御宿町の『月の沙漠』記念像をみた
女学生から「王子様とお姫様はそれからどこへ行ったのですか」と問われ,「僕
も知らないんです」ととぼけていたそうです。(1977年9月=昭和52年9月
「月刊絵本」)。『月の沙漠』記念像の除幕式は1969年7月6日に行なわれたそ
うです。二頭のラクダ像を前に『月の沙漠』を熱唱したのはペギー葉山さんだ
ったそうです。
加藤は『月の沙漠』は「御宿町の砂丘で得た幻想である」としていたそうです。
『月の沙漠』の着想は、幾つもの砂山が連なる浜辺を眺めているうちに
生まれたのだということのようです。
大正末期の立教大学英文科の学生時代,加藤は肺病の療養のためし
ばしば御宿を訪れていました。ここは,当時は静かな漁村で,弧状の海岸には
大きな砂丘がうねっていました。加藤が「砂漠」でなく「沙漠」としたのは,
乾いた硬いイメージの石偏ではなく潤いのある三水偏にこだわった,ためだそ
うです。当時、立教大に籍を置きながら創作活動を開始した加藤は、すでに竹
久夢二らと並ぶ売れっ子の叙情画家・詩人で,挿絵画家として一世を風靡しま
した。
こうしたこの歌の誕生のいきさつについては異論もあるようで,加藤の生まれ
故郷である静岡県の藤枝市は,海にも近く、加藤はよく浜辺に行って泳いだそ
うです。『月の砂漠』作詞に際しては,その記憶がヒントになった、と親類に話
していたそうです。御宿か藤枝か。どちらも加藤にとっては本当のことかもし
れません。ただ、晩年の加藤は「御宿説」を公言するようになったそうです。
昭和四十年ごろ,御宿で『月の沙漠』の記念像を建てようという話が持ち上が
りました。中心になったのは、当時の町商工会長、内山保(故人)。加藤が御宿に
滞在していた若き日、加藤がよく遊んでやったひとりの小学生が,この内山で
した。1967年春(昭和42年春),内山が加藤にあてた手紙がきっかけとなって
その後,二人の交流がつづくことになったそうです。『月の沙漠』記念像や記念
館が整備されたのは内山らの尽力の賜物でした。『月の沙漠』は御宿生まれ―そ
れは、自分を忘れずにいてくれた人々のために、加藤が信じ込もうとしたスト
ーリーだったのかもしれません。加藤は亡くなる一年前の1976年(昭和51年)
に東京の住まいを引き払って御宿に移り住みました。その翌年、80歳の生涯を
閉じました。加藤のなきがらは今も、思い出の海岸に近い御宿の最明寺に
眠っているそうです。
『月の砂漠』の歌が発表されて半年後に関東大震災が発生しています(1923年,
大正12年)。『月の沙漠』は荒廃した社会を勇気づけたそうです。『月の沙漠』
が多くの人に歌われ始めたのは、
皇太子明仁(現天皇)のご生誕 (1933)の頃だそうです。
当時、皇室の跡継ぎを待ち望んでいた国民にこれは歓喜をもって迎えられまし
た。『月の沙漠』は、その前年の1932年にレコード化されたばかりでした。
お供も連れず砂漠を行く王子様の姿は、自然と小さな皇太子に重なったそうです。
しかし、この曲が脚光を浴びるまでには、地道な普及活動を続けた作曲家の長
い年月がありました。1923年春,前年に浜松から上京してきたばかりの童謡作
曲家、佐々木すぐる(1892-1966)は,「少女倶楽部」三月号誌上の「月の沙漠」
と題した一編の詩に引き付けられて,さっそく曲をつけたそうです。不遇な青
春時代を送ってきた彼にとって、それは起死回生の願いを込めた作品だったそ
うです。佐々木は姫路師範学校に入学、作曲家を志して勉強を始めて苦労の末
に東京音楽学校に進み、卒業後、いったんは音楽教師として浜松師範学校に職
を得ましたが,作曲家になる夢を捨てられず,職をなげうち、再度上京したのは
六年後だったそうです。『月の沙漠』を作曲したのは、ちょうどそのころ。
しかし、無名の作曲家だけに、せっかくの曲も世に広げるすべはない。楽譜は、
最初はガリ版刷り,それを携えて各地を回り、小学校の音楽の先生相手に講習
会を開いたそうです。大正末期から昭和初期まで、訪れた小学校は600校
にのぼるということです。
こうした草の根の活動が実り、『月の沙漠』は次第に全国に広まっていきました。
佐々木は1932年、レコード化と同時に日本コロムビアに専属として迎えられま
した。40歳にしてようやくつかんだ一流作曲家の座でした。
(以上の内容は,下記の本からの要旨抜粋です:
・横田憲一郎.『教科書から消えた唱歌・童謡』産経新聞社. 2002.
pp58-61.
・読売新聞文化部.『唱歌・童謡ものがたり』岩波書店. 1999.pp128-131.)
月の砂漠 (1923) 加藤まさを作詞・佐々木すぐる作曲
Moon Over the Desert [Tsuki no sabaku]
(Lyrics by Masao Kato Music by Suguru Sasaki)
/Moonlit Desert
(Masao Kato / Suguru Sasaki)
1.月の 砂漠をはるばると
旅のらくだが行きました
(英訳: Greg Irwin、以下同様)
Long ago and far away in a forgotten land
In the desert late at night camels walked o’er the sand
(英訳:中川一郎、以下同様)
/In the blue moonbeams
/Passing on far away
/A pair of camels on a trip
/Have gone far away,
金と銀との鞍(くら)置いて
二つならんで行きました
Lost in time, a mystic line, on a journey unknown
Wearing gold and silver saddles, ‘neath the moon that shone
/With a silver saddle on
/With a golden saddle on
/They went on a trip
/They went side by side.
2.金の鞍には銀のかめ
銀の鞍には金のかめ
On the saddlebag of gold, hung a bright silver urn
On the silver saddle fold, hung an urn made of gold
/On the golden saddle is
/A pure silver pot.
/On the silver saddle is
/A pot of gold a lot,
二つのかめはそれぞれに
ひもでむすんでありました
So divine, another time, on a journey unknown
Tied together by a twine, ‘neath the moon that shone
/Each of the two pots
/Was bound with a braid.
/Each of the two pots
/Was bound with a braid.
3.さきの鞍には王子さま
On the camel’s back that night,
Rode a fair handsome prince
/On the saddle ahead a bit
/The Prince was riding,
あとの鞍にはお姫さま
On the camel there behind, a young princess did ride
/On the one after it
/The Princess was there.
乗った二人はおそろいの
白い上着を着てました
Lost in time, a dream so fine, on a journey unknown
Wearing white and wondrous gowns,
‘neath the moon that shone
/Both Prince and Princess,
/Riding on camel’s backs
/So graceful they looked
/In white costumes.
4.広い砂漠をひとすじに
Long ago and far away in a forgotten land
In the desert late at night camels walked
O’er the sand
/Treading on, treading on,
二人はどこへ行くのでしょう
Who could know where they did go?
/Where did they go that night?
おぼろに けぶる 月の夜を
対(つい)のらくだ は とぼとぼと
Step by step, all alone
Desert dreams, misty light beams,
‘Neath the moon that shone
/Treading on, treading on,
/They’ve gone out of sight,
/In the hazy moonbeams
/Treading on, treading on,
/A pair of camels on a trip,
/All gone out of sight.
砂丘をこえて行きました
黙ってこえていきました
O’er the mountains made of sand,
Hearts of gold, lips of stone,
In a long forgotten land, on a journey unknown
/Far across the sand hills
/Fading in the moonlight,
/Crossed they silent o’er the hills
/All gone out of sight.
(英訳:Greg Irwin /中川一郎)
(考察)
・月の 砂漠をはるばると 旅のらくだが行きました
Long ago and far away in a forgotten land
In the desert late at night camels walked o’er the sand
/In the blue moonbeams
/Passing on far away
/A pair of camels on a trip
/Have gone far away,
Greg Irwin訳は物語の背景をまず説明する。これは英語母語者へのご配慮であ
る。いつ、どこで、どんなことが、どのように、起きたのか、
その理由は、などというようなことに対する内容を明確にする。
微細にわたる英語表現論理を当然のこととして重視する。
・ 金と銀との鞍(くら)置いて 二つならんで行きました
Lost in time, a mystic line, on a journey unknown
‘neath the moon that shone
/They went on a trip
/They went side by side.
「二つならんで」:a mystic line対 side by side. あとのほうに「さきの鞍には
王子さま あとの鞍にはお姫さま」とあるので、ここは、a mystic lineの方が
よさそう。
・ 金の鞍には銀のかめ
On the saddlebag of gold, hung a bright silver urn
/On the golden saddle is
/A pure silver pot.
「かめ」:urn対potの妙。
・ひもでむすんでありました
Tied together by a twine, ‘neath the moon that shone
/Each of the two pots
/Was bound with a braid.
「ひも」:twine対braidの妙。
・ 二人はどこへ行くのでしょう
Who could know where they did go?
/Where did they go that night?
「二人はどこへ?誰にもわかりません
⇒Who could know where they did go?
こういうときにこそwho could know---?
の出番なのですね」
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